北野 優旗
こんにちは、身体均整師&パーソナルトレーナーの北野です。
今回は 筋肥大に大切な総負荷量についてご説明します。
筋トレに励む方にとって、筋肥大の効率化は大切です。
限界のさらに限界を追い込んで、根性論で持ち上げれば筋肉は大きくなるのでしょうか?
実は、追い込んだ重量だけにとらわれた筋トレは科学的には違っていたのです。
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重量負荷ばかりに目が行き、回数を意識せずにおこなっていてもダメなのです。
結論から言うと、筋肥大を最大化させる方法として「総負荷量」で決まります。
ではその総負荷量とは何なのか深堀しながら説明していきます。
目次
筋肥大を最大化させる「総負荷量」について解説
総負荷量とは、ウェイトトレーニングを行う際のバーベルの重量(kg)とそれを持ち上げる回数、そしてセット数を掛け合わせた数値となります。
総負荷量 = 重量 × 回数 × セット数
この数値が大きくなればなるほど、筋肥大化は大きくなると考えられています。
男性だけではなく、女性やお年寄りの方でも総負荷量を意識すると筋肉は大きく肥大化することができるのです。
重量だけを重くすれば、筋肥大できるとは限らず、回数を意識したトレーニングにおいても同等の筋肥大ができるという科学的論文も発表されています。
総負荷量による筋肥大を証明する研究論文
総負荷量は「トレーニングの強度(重量)×回数×セット数」によって決まると言われていますが、その根拠のエビデンスを2つご紹介します。
論文①低負荷と高負荷の筋力トレーニング間の筋力と肥大の適応
Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis
(訳)低負荷と高負荷の筋力トレーニング間の筋力と肥大の適応
低負荷と高負荷の筋力トレーニング間の筋力と肥大の変化を比較することでした。筋肥大の測定値の変化は、条件間で類似していた。調査結果は、筋肉肥大が負荷範囲のスペクトル全体で等しく達成できる。著者
ニューヨーク州ブロンクスのリーマンカレッジ健康科学部。
オーストラリア、メルボルンのビクトリア大学のスポーツ、運動、アクティブリビング研究所(ISEAL)。
Ogborn Research&Consulting、ウィニペグ、マニトバ、カナダ。そして
Weightology、LLC、ワシントン州イサクア
Brad J. Schoenfeld、brad @ workout911.comへのアドレス対応。
Journal of Strength and Conditioning Research: 2017年12月-第31巻-第12号-p
ということは、筋トレの効果を得るため、総負荷量を数値化しより高い数値でトレーニングに励むことが重要になるということです。
重量を高めることで、総負荷量も高まります。
もし回数やセット数が少なくなってしまうと、総負荷量を高めることができません。
総負荷量を高めるためには、ある程度回数をこなせる重量で、コンディションに合わせて回数やセット数を増やしたりして工夫するとよいでしょう。
論文②筋肉を構築するために重いウェイトを持ち上げる必要はない
2010年カナダのマクスター大学のニコラス・A・バードらによって発表された筋肥大に関する論文です。
Low-Load High Volume Resistance Exercise Stimulates Muscle Protein Synthesis More Than High-Load Low Volume Resistance Exercise in Young Men
(訳)強度が同じでも、セット数を多く行い、総負荷量を高めることで筋肥大の効果が増大する可能性がある著者
ニコラス・A・バード
カナダ、オンタリオ州ハミルトンのマクマスター大学運動学部所属運動代謝研究グループ
ダニエルWDウエスト
カナダ、オンタリオ州ハミルトンのマクマスター大学運動学部所属運動代謝研究グループ
アーロンW.ステープルズ
カナダ、オンタリオ州ハミルトンのマクマスター大学運動学部所属運動代謝研究グループ
フィリップ・J・アサートン
英国ダービーのノッティンガム大学市立病院大学院入学医学および健康の所属学校
【研究内容】
トレーニング経験者を2つのグループに分け、1RMの70%以上の強度でのレッグエクステンショントレーニングを行います。
Aグループは1セット、Bグループは3セット行いました。
【結果】
トレーニング後、AとBの両グループの平均総負荷量を計測したところ、1セットグループの平均総負荷量は942kg、3セットのグループは2184kgとなりました。
さらに、トレーニング後の筋タンパク質の合成率を計測すると、総負荷量の高かった3セットのグループが優位な増加を示していたのです。
【結論】
この結果から「強度が同じでも、セット数を多く行い、総負荷量を高めることで筋肥大の効果が増大する可能性がある」ということが示されたのです。(図1)
また低強度のトレーニングの場合も、「総負荷量を高めれば、筋肥大の効果が大きくなるのか」という疑問にも検証しています。
1RMの90%の高強度でレッグエクステンションを行うグループA、30%の低強度で行うグループBに分け、それぞれ限界までトレーニングを行いました。
その結果、90%高強度グループAのトレーニング回数は5回で終わったのに対し、30%低強度グループBの回数は24回となりました。
総負荷量については、高強度グループAは710kg、30%低強度グループB1073kgとなりました。
タンパク質の合成率では、総負荷量の大きな低強度グループがより高い増加を示しました。(図2)
これらの、マクスター大学のニコラス・A・バードらによって発表された筋肥大に関する論文報告により、低強度トレーニングにおいても、回数を多くし、総負荷量を高めることで、高強度と同等の筋肥大の効果が得られることが示唆されたのです。
しかし、これらの報告は、筋タンパク質の合成率や筋肥大の「短期的」な効果を検証したデータです。
筋トレに励む方にとって重要なのは断続的なトレーニングによる「長期的」な効果だと思います。
長期的なトレーニングでも総負荷量の考えは筋肥大効果を高める
総負荷量と長期的なトレーニングについては、Journal of Applied Physiologyに掲載されたマクスター大学のスチュアートフィリップスらによって研究報告されています。
After 10 weeks of training, three times per week, the heavy and light groups that lifted three sets saw significant gains in muscle volume?as measured by MRI?with no difference among the groups.
(訳)週に3回、10週間のトレーニングの後、3セットを持ち上げた重いグループと軽いグループでは、MRIで測定した場合、グループ間で差がなく、筋肉量が大幅に増加しました研究者
マクマスター大学
キネシオロジー教授
スチュアートフィリップス
【研究内容】
健康的な若い男性ボランティアを対象に、レッグエクステンションを1RMの80%で行う高強度グループAと、30%の低強度グループBに分けて検証しました。
両グループともに1日3セットで週3回、追い込むまでトレーニングを行い、これを10週間継続しました。
【結果】
その結果、AとB両グループともに大腿四頭筋(太もも前の筋肉)の筋肉量は増加したものの、AとBのグループ間では筋肉量の優位な差は認められませんでした。
この長期的なトレーニングに関しては、2016年の同大学のマートンらが行った多関節トレーニングの研究でも同様の結果が出ています。
長期的な筋肥大の効果においてお、低強度トレーニングの回数を増やして総負荷量を高めれば、高強度と同等の効果が得られることが示唆されたのです。
そして2017年には、これらの報告をまとめて解析したメタアナリシスが報告され、低強度でも高強度でも総負荷量を高めれば、筋肥大の効果は同等であるということが示されているのです。
よって、これらのエビデンス報告が、筋肥大の効果は【総負荷量】によって決まると強く立証されたと思います。
【疑問】サイズの原理の理論
「サイズの原理」では、低強度トレーニングでは小さな運動単位(※)が筋収縮に動員され、大きな運動単位は筋収縮に動員されてきていないとされてきました。
※運動単位とは、脊髄神経から伸びる一つの運動神経はいくつかの筋線維の束と結びつくユニット
運動単位について分かりやすく解説はこちら
そうすれば、より多くの筋線維の筋収縮を起こさせるためには、やはり高強度トレーニングが必要になるとも考えられ、”低強度トレーニングが高強度トレーニングと同等の筋肥大効果をもたらす”という説に疑問も生じます。
この疑問に答えたのが、論文がありました。
運動回数を追い込むと大きな運動単位が動員される
2003年ノルウェー科学技術大学のC. Westad氏らによって、低強度トレーニングでも、運動回数やセット数を増やして追い込むことで、小さな運動単位を助けようと大きな運動単位が動員されていくという研究論文が報告されました。
Motor unit recruitment and derecruitment induced by brief increase in contraction amplitude of the human trapezius muscle
(訳)人間の僧帽筋の収縮振幅の短時間の増加によって誘発される運動ユニットの動員と動員解除ノルウェー科学技術大学産業経済技術管理学科
C. Westad
ノルウェー科学技術大学産業経済技術管理学科
RH Westgaard
【研究内容】
僧帽筋(上肩部の筋肉)に低強度のトレーニングを持続的に与えて筋疲労させる。
【結果】
小さな運動単位だけでなく、徐々に大きな運動単位も動員されていく「運動単位のサイクル」が生じることを報告しました。
つまり、低強度トレーニングでも、運動回数を増やして筋疲労まで行うと、小さな運動単位の働きを助けるように大きな運動単位が動員されることが示されたのです。
また、イギリスのサウサンプトン・ソレント大学のフィッシャー氏らは、「運藤単位のサイクル」に関するメカニズムをまとめてレビューし、低強度トレーニングでも追い込んで行うことで、すべての筋線維を収縮することが可能となり、高強度トレーニングと同等の筋肥大の効果が得られると推察し、ウェストタッド氏たちの示唆を後押ししています。
【注意点】追い込んでも正しいフォームを維持することが大切
筋トレで大切なことの一つに正しいフォームで行うことは重要です。
例えばベンチプレストレーニングを行ったとしましょう。
その際に限界ギリギリの重量や回数で追い込んだとします。
背中をのけぞって持ち上げたり、利き腕に頼って無理やり押し上げたりして上げるのが目に浮かびます。
ベンチプレスで正しいフォームで行うには、台に背中をしっかりとつけて可動域いっぱいに胸近くまでバーベルを下し、真っすぐ上げることができなければ狙った筋肉の肥大にはつながりません。
大胸筋や上腕三頭筋などの左右の筋肉バランスもくずれてしまうことでしょう。
そして無理して限界を超えようとフォームを崩していると関節や筋肉を痛める可能性があります。
初心者の方は特に、重量の限界はやめましょう!
初心者は10回の回数を目安に総負荷量を計算して数値管理しよう!
初心者の方は、重量に頼った筋肥大を目指すとフォームが崩れてしまいます。
そこで、回数を意識するようにしましょう。
限界を迎える手前の回数を10回となるように重量を調整してセット数をこなすようにしましょう。
10回が限界とならないように重さを調節してください。
セット数の時間は自分の脈拍が正常に戻った位を目安にすると良いです。
これは自重トレーニングでも活用できますが、ダンベルやバーベルなどの器具を使ったトレーニングに適した考えです。
自重トレーニングの鉄棒では10回が限界を超えて出来なかったり、スクワットでは軽すぎて10回は簡単すぎる場合もあるので工夫が必要です。
アスリートトレーニングとの違い
これまでは筋肥大を目的とした、総負荷量トレーニングについて説明してきました。
しかし、スポーツパフォーマンス向上のために「総負荷量トレーニング」のみで考えてはいけません。
総負荷量トレーニングは、あくまで筋肥大化を目的としたトレーニング方法です。
スポーツは、競技によって専門的な動作、瞬発力、持久力、スピード、俊敏性など様々な体力が必要です。
筋肥大化トレーニングだけ行っていては、スピード、俊敏性、持久力、スピードの向上にはつながりません。
競技の目的によっては、総負荷量トレーニングも取り入れることもあるかと思いますが、
アスリートや学生スポーツでスポーツパフォーマンス向上を目指している方は、トレーニングの一環として考えておきましょう。
以前の「筋トレの目的」に書いた①筋肥大が目的②パワー強化が目的でトレーニングの仕方も変わります。
合わせて読んでみてください。
メンタルの強化につながる
そして、一般の人とアスリートとの決定的な違いは、試合で結果を残すという意識が違うのです。
試合では大きなプレッシャーと闘わなくてはなりません。
精神的な強さであったり、自信を持って試合にのぞまなくてはなりません。
そのメンタルを強くするのは、日々の追い込んだトレーニングをこなしてきた自分だけなのです。
最大筋力の発揮力が高まる
そして限界に追い込んだトレーニングは、一度に発揮する筋力(パワー)が高まります。
日頃のトレーニングで限界に近い筋力を発揮し続けていると、限界に近いギリギリの筋力を発揮しやすくなるのです。
いつもMax60%の重量をしんどい手前の回数やセット数でやめていては、いざ本番の試合でも瞬間的に力を発揮することができないからです。
ですからアスリートやボディビルダー(筋トレ上級者)にとっては追い込んだトレーニングも時には必要と言うわけです。
まとめ
筋肥大化を目指して、総負荷量を取り入れたトレーニングは科学的な根拠があります。
総負荷量とは回数(セット数)×重量で疲労困憊まで追い込むトレーニングです。
また低強度のトレーニングにおいても、回数を増やし、限界まで回数を追い込むことで大きな運動単位の動員が起こります。
女性やトレーニング経験が少ない人は、安全面を考慮して軽めの負荷で回数やセット数で筋肥大を目指すのも良いと思います。
しかし、初心者にとって追い込み過ぎるトレーニングはフォームを崩してしまわないように注意してください。
アスリートやスポーツトレーニングとして、総負荷量を取り入れたトレーニングはの筋肥大化は目的に合わせたトレーニングの一環として取り入れるようにしてください。
総負荷量を取り入れたトレーニングは、あくまで筋肥大化にだけクローズアップした内容です。
トレーニングによる筋肥大は総負荷量「トレーニングの強度(重量)×回数×セット数」によって決定する解説しましたが、最近の研究では、さらに関節を動かす可動域も効果を高めることが分かってきました。
筋肥大のメカニズムから知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
「筋トレの頻度」で悩んでいる方は、こちらの記事も参考になると思います。
筋トレの頻度についてもさまざまな研究論文が報告され、正しいトレーニング習慣が分かりました。
筋トレのやり過ぎや無駄に追い込んだ筋トレは、今は主流ではありません。
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