筋トレをしていて深く曲げた方が、きつく感じますよね。
ベンチプレスでも、バーベルを胸につくまで下すのと、その半分まで下すの、全然違いますけど。
この関節の曲げ伸ばしをする可動域って筋トレにどのような影響を与えるのでしょうか?
今回の記事は「筋トレにおける関節可動域の影響」について深堀解説していきます。
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また、信頼ある研究論文を引用しつつ根拠ある情報を分かりやすく解説しますので、ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。
目次
「フルレンジ」と「パーシャルレンジ」
筋トレは、器具やマシンを使って行う屈伸運動が基本です。
そのため、関節を「どの範囲まで動かすか」によって、筋肥大の効果も大きく左右されます。
関節を動かす範囲には、可動域を最大限に曲げ伸ばしする「フルレンジ」と、その半分の角度まで動かす「パーシャルレンジ」があります。
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どちらの方法がより筋トレ効果を上げるのか、意見が分かれるとこでした。
ちなみに、楽なトレーニングとなるのはパーシャルレンジです。
これは、筋肉の「長さ」と、筋肉の「収縮力」が影響しています。
筋トレの筋収縮のメカニズム
筋肉は大きい方から筋線維、権限線維という階層構造になっています。(筋構造参照)

筋肉の構造
最も小さな筋原線維の中には、筋タンパク質のアクチンからできた細い繊維ミオシンからできた太い繊維があり、これらが一つの単位となってサルコメアが構成されています。
筋肉の収縮は、無数にあるこのサルコメアによって生じています。

骨格筋の階層構造とサルコメアの筋収縮
ミオシン・フィラメントからはミオシンの先が飛び出てて、2つのフィラメントがくっつき合うとミオシンの先とアクチン・フィラメントがつながり、クロスブリッジが作られます。
フィラメントのすべり運動が生じることによって、筋肉が収縮します。
そして、ミオシンとアクチンが最も重なり合う筋肉の長さを「生体長」と言い、筋肉が生体長にあるときは最大の筋収縮力です。
つまり最大の筋力が発揮されるのです。
生体長より長くても短くても、発揮される力は減少します。
この関係を現したのが、「長さー張力曲線」です。

長さー張力曲線
参考文献:科学的に正しい筋トレ「最強の教科書」 理学療法士/トレーナー 庵野拓将
ダンベルフライで解説

ダンベルフライ
ダンベルフライという筋トレ種目で説明してみます。
主に大胸筋(上部)を鍛えるメソッドになりますが、その筋肉の長さは肩関節の角度によって決まります。
肩の可動範囲は0度から130度までありますが、中間域である87度付近が大胸筋の生体長となり、最大の筋力が発揮される角度となります。

ダンベルフライの可動域
そのため、ダンベルフライを行う場合、最大限可動域を広げるフルレンジよりも中間の角度で小さく動かすパーシャルレンジの方が楽に感じるのです。
これはインクラインダンベルフライやスクワットやベントオーバーロウなどの他の種目でも同じです。
また、トレーニング開始時は元気なためフルレンジで行っていても、疲労がたまってくると動きが小さくなってしまうことがあります。
それは無意識に、楽なエネルギーで発揮できると生体長の範囲に動きを合わせようとしているためなのです。
フルレンジが筋肥大効果を高める理由
(論文解説)
トレーニングによる筋肥大は総負荷量「トレーニングの強度(重量)×回数×セット数」によって決定すると、以前の記事で解説しました。
しかし、最近の研究では、さらに関節を動かす範囲も影響することが分かってきました。
研究論文報告:可動域が筋力と厚さに及ぼす影響(2012年)
2012年、ブラジルのフェデラル大学が「関節を動かす範囲の異なりによるトレーニング効果」について研究を以下のように報告しています。
Effect of Range of Motion on Muscle Strength and Thickness (可動域が筋力と厚さに及ぼす影響)
トレーニング開始前と10週間後の1RMテストの結果(引用:https://journals.lww.com)
In summary, it was concluded that full ROM resistance training protocols are better than partial ROM for increasing full ROM strength of the elbow flexors in untrained individuals.
(翻訳)筋力を向上させるには、フルレンジによるトレーニングがパーシャルレンジよりも優れている。公開:2012年8月
Pinto, Ronei S; Gomes, Naiara; Radaelli, Regis; Botton, Cintia E; Brown, Lee E; Bottaro, Martim
この研究は40名のモニターをアームカールをフルレンジ(0~130度)で行うグループと、パーシャルレンジ(50-100度)で行うグループに分け、ともに週2回のトレーニングを10週間行いました。
運動強度は、始め1、2週は20RMの低強度トレーニングで、そのあとは徐々に減らし、9、10週では8RMで行っています。※RMとは

両トレーニンググループ(FULLおよびPARTIAL)で行った肘関節の屈曲可動域(ROM)について(引用:https://journals.lww.com)
その結果、パーシャルレンジに比べ、フルレンジのグループで筋肥大の増加が見られました。
比較すると、フルレンジがパーシャルレンジの2倍の値を示しています。

トレーニング開始前と10週間後の筋肉の厚さ(MT)を測定した結果(引用:https://journals.lww.com)
この結果から、フェデラル大学Pinto Ronei氏らは「筋肥大をパーシャルレンジよりも、フルレンジのトレーニングの方が有効である」と述べています。
研究論文報告:重負荷スクワットの可動域が筋・腱の適応に及ぼす影響(2013)
2013年、デンマーク・コペンハーゲン大学でスクワットにおける膝の角度の違いによるトレーニング効果を検証し、以下の通り報告されています。
Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations (重負荷スクワットの可動域が筋・腱の適応に及ぼす影響)
スクワットにおける膝の角度の違いによるトレーニング効果を検証(引用:https://link.springer.com)
Training deep squats elicited favourable adaptations on knee extensor muscle size and function compared to training shallow squats.
(翻訳)深いスクワットのトレーニングは、浅いスクワットのトレーニングに比べて、膝伸展筋の筋肥大と機能に好ましい適応をもたらした。公開:2013年4月20日
K. Bloomquist, H. Langberg, S. Karlsen, S. Madsgaard, M. Boesen & T. Raastad
モニターをフルレンジのスクワット(0~130度)のグループとパーシャルレンジのスクワット(0~60度)のグループに分け、週3回のトレーニングを12週間行った結果、パーシャルレンジスクワットのグループに比べて、フルレンジスクワットのグループでは足の筋肉量が有意に増加したのです。

フルとパーシャルのスクワット検証結果(引用:https://link.springer.com)
この結果は、パーシャルレンジのスクワットよりもフルレンジスクワットの方が筋肥大の効果が高いことを示唆しています。
これらの報告によって、現在は「筋肥大を目的としたトレーニングは、フルレンジが効果的である」と推奨されています。
研究論文から考察
確かに、パーシャルレンジは生体長に近い運動範囲となるため、フルレンジよりも大きな筋力が発揮でき、さらに負荷の強い高強度トレーニングを行うことができます。

総負荷量(フルレンジ・パーシャルレンジ)
でも、関節を動かす際に使われる筋肉の総負荷量を見ると、パーシャルレンジよりもフルレンジの方が高いことがこのデータで示されています。
これが筋肥大の効果を求めたトレーニングにおいてフルレンジが良いと推奨される理由となっていることが分かります。
しかし、関節の可動域を広げたトレーニングは筋肥大効果に期待できますが、反面リスクがあります。
フルレンジの注意事項
筋肥大には効果的なフルレンジによるトレーニングですが、総負荷量を高めやすいメリットがあるものの、ケガにつながるリスクが高くなるという報告もあります。
2017年、フェデラル大学が発表した研究論文で以下のように報告されています。
Full Range of Motion Induces Greater Muscle Damage Than Partial Range of Motion in Elbow Flexion Exercise With Free Weights
フリーウエイトを用いた肘関節屈伸運動において、全可動域での運動は部分可動域での運動よりも筋損傷が大きいIn conclusion, elbow flexion exercise with full ROM seems to induce greater muscle damage than partial-ROM exercises, even though higher absolute load was achieved with partial ROM.
(翻訳)結論として、フルレンジでの肘関節屈伸運動は、パーシャルレンジでより高い絶対的負荷が得られるにもかかわらず、パーシャルレンジでの運動よりも大きな筋損傷を誘発するようである。公開:2017年8月
Baroni Bruno; Pompermayer, Marcelo; Cini, Anelize; Peruzzolo, Amanda; Radaelli, Regis; Brusco, Clarissa; Pinto, Ronei
フルレンジではトレーニング直後から筋力が低下し、肘を伸ばした時や触診による筋肉痛を72時間後まで続いたと記されています。
フルレンジはパーシャルレンジよりも筋肉の収縮力、張力の負荷が大きいため筋肉へのダメージが大きくなりやすく、回復が遅れたと推察しています。
筋肉が発揮する力は筋肉の長さに影響を受けますが、筋肉のダメージもまた、筋肉の長さに影響を受けることが示唆されています。
当研究者のフェデラル大学Baroni Bruno氏らは「フルレンジでトレーニングを行う場合は、パーシャルレンジよりも筋損傷の回復時間が長引くことを考慮したうえで、トレーニングプランを考えるべきである」と述べています。
高強度の負荷でトレーニングをする場合、ケガのリスクを避けたいのなら、パーシャルレンジで行うか、フルレンジの手前で運動を切り替えてみることも大切です。
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