香川県三豊市の田園の中に、健康関連商品ベンチャー(VB)でO脚の矯正に取り組むエクササイズ器具を開発したQITANO株式会社の本社はある。社長の北野優旗(34)は整体院を営みながら、地元の産学と連携してオンリーワン商品を生み出した。原動力はアスリートとしてけがに苦しんだ経験と、体のケアを知り尽くした専門家としてのこだわりだ。
靴型器具「レグール」はピンクと白を基調としている。靴と同じように履いて両足をそろえて立ち、つま先を開いたり閉じたりする。靴底に取り付けた円形の回転台を軸に適度な負荷をかけることで骨盤周辺の筋肉を鍛える。O脚に悩む整体院の女性客らの声を聞き考案した。1セット3万円以上と安くはないが、発売から数ヶ月で受注は150足に達した。
もともと「陸上一家」に育った。父はハンマー投げの室伏重信氏とともに国際大会で表彰台に上がった実力者。父が顧問を努めていた高校の陸上部でやり投げを始め、順天堂に進んだ。競技を続けながら教諭をめざした。日本ジュニアで2位に入るなど実績を残したが、同時にヘルニアや肩・肘のけがに悩まされた。
「感謝の気持ちを持ち、(陸上の)『北野ジュニア』ではないオリジナルの人生を築きたい」。卒業時、地元に保健体育教諭の沸くがなかったため東京に残りIT(情報技術)企業に就職、システムエンジニアとしてのやりがいもあった。だが、幼児がいる先輩が深夜遅くまで働く姿に「自分にはまねできない」。将来を考え直し、けがとの付き合い方を学んだ整体の道に進むことを決意した。2年で退社し専門学校に通った。
地元で整体院を開き5年ほどたった3年前。O脚による足の痛みを訴えたり、湾曲した脚を美しく見せたいと希望する女性が多いのに気づいた。ゴムバンドを使うといった既存の方法とは異なり、気軽に矯正のための運動ができる器具が作れないかと、スリッパやスプリングをホームセンターで購入し、試行錯誤を重ねた。
商品開発が加速したきっかけは、類似品がないことを確認しようと訪れた県発明協会との相談。同協会の後押しもあり設計図面は自動車大手の設計を手がけたデザイナーに、回転時に重要な役割を果たすフェルトとゴムの中間素材の提供やプラスチック加工は地元企業がそれぞれ担う体制が固まった。
レグールを使った動作と骨盤周辺の筋肉(中殿筋、大殿筋、梨状筋、骨盤底筋など)の動きの関係は、香川大学工学部との共同研究して確認した。金型作りでは修正を繰り返し、開発費は2000万円に膨らんだ。「行政の補助金を含め地元の産学官の支援がなければ、個人では難しかった」と振り返る。
北野は今後「男性や子供向けなど、新たな商品の開発を進めたい」と意気込む。自らの整体院にセラピストを雇い運営しているリラクゼーション事業は評判がよく、新たに丸亀市に施設を開業して拡大する予定だ。顧客の声や反応をすくい上げ、新たな製品や事業に反映する。その背景には「体の専門家と客が共同でつくるものづくり」との考えがある。